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2025/07/31 12:08







秩父を訪れたのは、初夏の午後。

山に囲まれた盆地の町は、どこか懐かしく、ゆったりと時間が流れていた。
その一角にある「ちちぶ銘仙館」の前に立ったとき、私はふと、ある一枚の着物に出会った日のことを思い出した。

──赤と黒の縞に、くるりと花模様。
どこか洋風で、けれど確かに和の空気が漂うその反物。
「秩父銘仙」と書かれた札が、控えめに揺れていた。


“普段着”だった時代の華やかさ

秩父銘仙は、昭和初期までの日本女性にとって「ふつうの着物」だった。
木綿よりは上等で、でも晴れ着ではない。
毎日袖を通す、いわば“おしゃれな普段着”の代表だったという。

それがどうして今、こんなにも新鮮に映るのだろう。

──柄に自由がある。色に遊び心がある。
だからこそ、当時の女性たちは“自分の個性”を、銘仙に託していたのかもしれない。

ときに大胆で、そして愛らしい。
「布に残された意思」のようなものを、私は銘仙から感じてしまうのだ。







忘れられた存在から、再び日の目へ

戦後の大量生産・化学繊維の波にのまれ、秩父銘仙は徐々に姿を消していった。
けれど近年、「大正ロマン」「レトロ着物」ブームの中で、再びその魅力が見直されつつある。

絹ならではの光沢、手織りの揺らぎ、そして一点一点異なる柄。
現代の着物にはない、“不完全であることの美しさ”が、ここにはある。

あなたの毎日に、少しだけ銘仙を

銘仙は、決して高級な着物ではない。
でも、だからこそ、気軽に袖を通せる。
散歩に、街歩きに、あるいはちょっと背筋を伸ばしたい日にも。

リサイクルの銘仙なら、価格も手頃で、初心者の方にもおすすめ。
少し昔の“おしゃれ”を、あなたの毎日にそっと添えてみてはいかがだろう。





たくさんの人の暮らしの中にあり、静かに愛されてきた「秩父銘仙」。
この布にこめられた物語を、次の誰かに伝えていけたら。
そんな思いで、私たちは今日も、ひとつひとつ選んでいます。

もしあなたも、ちいさな“銘仙の出会い”を探しているなら──
オンラインショップや店舗で、どうぞ気軽にのぞいてみてくださいね。



ひふみ屋

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